資本フロー観測日誌 #005|金利2%時代の日本と、地政学プレミアムの始まり

地政学プレミアムの始まり

2026/02/23

■ 資本フロー・スナップショット(午前10時20分)

ドル円:154.13
米10年金利:4.0864%
日本10年金利:2.101%
日経平均:56,620円

一言総括:資本は「金利のある日本」への適応を進めつつ、日米の経済安全保障という強固な枠組みへ収斂している。


① 今日のニュース要点

高市政権は施政方針演説にて、補正予算依存からの脱却と全閣僚による「トップセールス」を掲げ、実務重視の姿勢を鮮明にしました。対米関係ではトランプ関税への懸念が残るものの、南鳥島沖のレアアース開発やガス火力発電への投資を通じ、米国の経済安全保障に不可欠なパートナーとしての地位を固めつつあります。
一方、民間ではパナソニックHDや三菱ケミカルGが祖業の整理や人員削減を伴う大規模な構造改革を断行し、市場はこれを「V字回復の予兆」と好感。
地政学面では、中国国有企業によるベラルーシへの兵器プラント輸出が報じられ、供給網の陣営化がさらに深まる兆しを見せています。

② 定量で見る

  • 金利差と通貨:日米金利差は約2%まで縮小していますが、ドル円は154円台で底堅く推移しています。これは単なるキャリートレードの解消だけでなく、米国の底堅い景気と、日本の輸入物価上昇に伴う構造的な円の需給バランスが均衡点を探っている状態を示唆しています。
  • 米10年金利の示唆:4.0%台を維持する米金利は、トランプ政権の関税政策によるインフレ懸念と、AI投資等に伴う高い成長期待の両面を反映しています。世界の基準金利が高止まりすることは、資本が「安易なレバレッジ」から「確かな収益性」へと厳選されるプロセスが継続していることを意味します。
  • 日本10年金利の示唆:2.1%台への到達は、日本が完全に「金利のある世界」に回帰したことを象徴しています。これは財政規律への意識を高める圧力となる一方、銀行セクターの収益改善や、企業による資本効率向上へのインセンティブとして機能し始めています。

③ 定性で見る構造

資本移動の背後には、「効率性から信頼性へ」というパラダイムシフトが存在します。
かつて資本は最もコストの低い場所(中国など)へ流れましたが、現在は安全保障上のリスクを回避し、同盟国間でのサプライチェーン構築(フレンド・ショアリング)を優先しています。
日本の南鳥島レアアース開発や対米投資の強化は、この「安全保障を軸とした資本移動」の典型例であり、この構造が強まるほど、日本株への「地政学的プレミアム」が付与されやすくなる可能性があります。

④ 資本フローの翻訳(月曜:通貨中心)

本日のドル円154円という水準を、単なる「円安」と片付けるのは早計かもしれません。構造要因から紐解くと、資本の到達点が変化していることがわかります。

  • 通貨(構造要因):従来の円安は「売られる円」という側面が強かったですが、現在は「選別される円」へと移行しています。日本企業が「高付加価値・高価格」のビジネスモデル(セイコーの事例など)へ舵を切り、輸出数量ではなく「マージン」で稼ぐ体質へ変化していることは、中長期的には円の購買力を支える要因となり得ます。
  • 金利(インフレ・財政):日本の実質賃金が安定的にプラスに転じる兆しが見える中、日銀の正常化プロセスは「正常な経済循環」への回帰と市場に受け止められています。金利上昇が経済のブレーキではなく、資本の適正配置を促す「篩(ふるい)」として機能している点が、56,000円を超える日経平均の背景にあると考えられます。
  • 株式(資本の到達点):パナソニックHDや三菱ケミカルGに見られる「不採算事業からの撤退」という自己変革は、グローバル資本が日本株に求めていた「資本効率の改善」そのものです。不透明な国際情勢下において、規律ある日本企業が「避難先」ではなく「積極的な投資先」として選別されている動きが示唆されます。

⑤ 経営者・個人事業主への示唆

実質賃金のプラス化とインフレ経済の定着は、これまでの「コストカット型経営」の終焉を意味します。金利2%という環境下では、借入によるレバレッジよりも、いかに付加価値を高めて価格転嫁を行うかという「自己規律」が問われます。
また、AIディープフェイクのような新たなリスクが信用を脅かす中、組織の「透明性」と「信頼性」そのものが、資本を惹きつける最大の資産となるでしょう。

⑥ 私のスタンス

相場の上下を当てる「予測」に時間を費やすよりも、基底にある「構造の変化」に備えるべきです。日本が金利のある経済へ移行し、日米の安全保障体制が資本の流れを規定するという大きな流れは、もはや一時的な流行ではありません。ノイズに惑わされず、企業が自らを変革しようとする姿勢や、国家が資源を自給しようとする長期的な営みに注目し続けることが、知的な投資の土台となると信じています。