今週も一週間お疲れさまでした。ニュースは騒がしいのに、資本の動きはどこか冷静です。表面の値動きよりも、「何が前提になり始めたか」を見にいくと、今週の市場は一つの物語として整理できます。
2026/02/28
今週の思考の補助線
本編に入る前に、今週の市場を読み解くための「思考の補助線」を提示しておきます。資本は今、以下のようなプロセスを経て流れています。
今週の資本の矢印:
地政学・制度(関税/中東/税制)→ 米10年(割引率)→ 日本10年(信認の値札)→ ドル円(コスト)→ 株(到達点:指数高値でも選別)
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① 今週の資本フロー総括:4つの指標が語る“ひとつの流れ”
【今週の観測地点(市場データ|2月28日午前6:21)】
- ドル円:156.11
- 米10年金利:3.951%
- 日本10年金利:2.128%
- 日経平均:58,850
【週初(#005)→現在への変化】
- ドル円:154.13 → 156.11(+1.98円)
- 米10年:4.086% → 3.951%(-0.135pt)
- 日本10年:2.101% → 2.128%(+0.027pt)
- 日経:56,620 → 58,850(+2,230円)
上流で起きたのは、米10年の低下(4%割れ観測)でした。ここはインフレ沈静化の“前向きな低下”というより、関税政策や中東緊迫、信用不安が重なる局面で、資本が究極の流動性へ退避した結果——「質への逃避」の色合いが強い。
本来なら米金利低下は金利差縮小を通じて円高要因になりやすいはずです。それでもドル円が156円台で底堅いのは、有事のドル需要が下値を支え、同時に日本のエネルギー輸入構造・実需が円需給の重力として残っているから、と読むほうが自然です。
国内では日本10年が2%台に定着しつつあります。ここは「利上げする/しない」よりも、税制・財政・日銀運営の整合性という制度運営への信認が価格に混ざり始めていると考えると、株・為替の見え方が変わります。
そして、この地政学リスクの壁、底堅いドル、金利のある日本という3つのフィルターを通って、資本の到達点となったのが日経平均の高値圏でした。ただし、指数が強いことは「全部安心」を意味しません。今週の株は、熱狂というより、採算・需給・価格決定力のある領域へ“選別”して置きにいく動きが混ざりやすい週でした。
一言総括:
今週、資本は成長の熱狂から一歩引き、「絶対的な流動性(米国債)」を基点にしつつ、地政学と金利のフィルターを通って“持続性のある到達点”へ選別されながら流れ込んだ。
② 今週“深まった構造”:歴史の巻き戻しと信認の再定義(2軸)
軸A:ヤルタ体制の終焉と「安全保障の日常化」
ウクライナ侵攻から4年という節目に、欧州を飛び越えた米ロの直接交渉の影が見え隠れしました。これは第二次大戦後の秩序(ヤルタ体制)が引き直され、「力と勢力圏の均衡」へと歴史の針が巻き戻っていることを示唆しています。
トランプ政権が発動する一律関税や、ネットフリックスによるワーナー買収断念の背後に指摘される政治介入の影。これらは、経済合理性よりも国家の安全保障や政治的意図が優先される「新重商主義」への回帰です。今週、イタリアの輸出額が日本を逆転したという象徴的なニュースがありましたが、為替変動に頼らず、ブランド力と専門性で「価格決定力」を持つ国や企業だけが、関税や分断の壁を越えて生き残れる。資本は今、最も効率的な場所ではなく、最も「干渉に耐えうる場所」を探し始めています。
軸B:財政信認の可視化と「時間軸の変化」
日本10年金利2%台は「金利のある世界」が一時的でないことを示します。金利は調達コストである以上に、制度運営・財政に対する信認の値札です。
この局面では、政策の“正しさ”より“読めること(可視化)”が効いてきます。見通しが立てば資本は乗れるし、見通しが曇ればリスクプレミアムが乗る。結果として、企業の評価軸も、低金利で規模を追う発想から、中長期でマージンを積み上げる自己規律(価格転嫁・資本効率・調達耐性)へと寄りやすい。今週の「期待→持続性」は、この時間軸の変化に整合的です。
③ 3つの未来シナリオ(トリガー条件付き)
これらの構造要因を踏まえ、今後の展開として考えられるシナリオを3つの方向性で整理します。
Baseシナリオ(地政学プレミアムの定着と選別色の強化)
最も現実的なのは、中東情勢が決定的な破局を回避しつつも緊張状態を保ち、米国の関税政策が段階的に織り込まれていく展開です。資本はリスク資産から完全に逃げ出すわけではありませんが、米金利が4%前後で高止まりする中、より強固な財務基盤と代替不可能な技術を持つ企業へと選別投資を強めていくでしょう。日本の株価指数は底堅く推移しつつも、需給と採算が揃った領域に資金が集中していくと推測されます。
Bullシナリオ(政策の可視化と同盟プレミアムの拡大)
上振れシナリオとしては、日本の税制・財政議論や日銀のコミュニケーションの透明性が高まり、市場の「信認プレミアム」が安定するケースです。さらに、国内のAI半導体拠点整備や防衛装備輸出の緩和といった国策が実装段階へと進むことで、日本が米国の同盟圏サプライチェーンにおける強固な一角として評価され、日本株が「避難先」ではなく「積極的な投資先」として大きく資金を惹きつける可能性があります。
Bearシナリオ(供給ショックと割引率の悪化)
警戒すべき下振れリスクは、中東での本格的な武力衝突による原油供給網の寸断などにより、強いコストプッシュ型インフレが再燃するケースです。物価上昇の圧力により中央銀行の利下げ期待が完全に後退し、金利の高止まりが続けば、リスク資産の「割引率」が急激に悪化します。株式市場全体から資金が流出し、広く守りの資産へ逃避するスタグフレーション的な連鎖に備える必要が出てくるかもしれません。
④ 投資テーマの整理(中長期のみ:今週の材料に紐づけて)
日々のノイズから距離を置き、中長期的に追い風を受けやすいテーマの方向性を整理します。
- エネルギー・インフラ(現実路線への回帰): 出光興産が製油所の閉鎖を撤回したように、性急な脱炭素の理想論から「エネルギー安保を重視した現実路線」への回帰が進んでいます。エネルギー価格の高止まりは一時的なショックではなく粘着的なコストとなりやすいため、資源・インフラ関連は息の長いテーマとして機能しそうです。
- 通貨構造とプライシングパワー(価格決定力): 円安はもはや金融緩和だけの物語ではなく、日本の貿易構造の表れです。為替の変動に一喜一憂せず、輸入物価の上昇を適切に商品価格へ転嫁できる(プライシングパワーを持つ)事業基盤を備えた企業群が、相対的な強さを発揮していくと考えられます。
- AI・成長領域(「期待」から「持続性」へ): エヌビディアの歴史的好決算に対しても市場の反応が冷静だったように、テーマに対する「無条件の熱狂」のハードルは上がっています。これからは単なる期待先行ではなく、実際の採算性や競争優位性といった「持続力」を証明できるかどうかが、成長領域における厳格な勝者条件となっていくでしょう。
⑤ 来週の観測ポイント(構造が変わるスイッチを3つ)
構造の変化を見極めるため、来週は以下の3つのスイッチに注目して市場を観測予定。
- 米10年金利の変動理由: 上下動の理由が「インフレへの警戒(悪い上昇)」なのか、それとも「恐怖による逃避(守りの低下)」なのか。ここが変わると全資産の見え方が変わります。
- 日本の信認(10年金利の安定性): 税制議論や財政政策の発信において整合性が保たれるか。政策の透明性が揺らげば、日本10年金利の上昇が株価の「静かな負担」になり得ます。
- 中東情勢と原油の温度感: 地政学リスクが突発的な短期ショックにとどまるのか、それとも原油高を通じてコストの粘着的な上昇として定着するのか。
⑥ 私のスタンス
天井や底を当てるより、制度→金利→通貨→株の順に資本の矢印を追う。
今週は「質への逃避」を起点にしながら、地政学と金利のフィルターを通って、到達点では“選別”が進んだ週でした。来週も事実を積み上げ、観測を更新します。
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